「まだ胎児としてお腹にいるときに栄養を十分にもらえなかった赤ちゃんは、成人病のリスクが高い」という研究が注目されています。赤ちゃんがお腹にいる時の栄養環境が誕生後しばらくだけでなく、大人になっても影響するというDOHaD(Development Origins of Health and Disease)説が今、世界中で研究されているのです。妊婦さん、いつかママになりたい方、そしてもうお子さんがいる方にぜひ知っていただきたい大切な栄養の話です。
お腹の胎児はどんな環境にあるの?
胎児はママの胎内で約10か月過ごします。胎児とママをつなぐ「へその緒」は血管の束になっており、胎児はママの血中に溶けこむ栄養と酸素をもらいながら、大きくなります。そのため、妊娠後期にもなると普段より450カロリー余分に摂取することが推奨されています 。
ところが日本では今、極端にやせている20代30代女性が増加しています。不自然なダイエットの影響とみられ、極端なやせ型(BMIが18.5未満)の人数が食糧難だった戦後より多い、という驚きの結果が報告されています。やせた女性、栄養を十分に摂らない妊婦さんからは低出生体重児が生まれる傾向があると分かってきました 。
小さな赤ちゃんにはどんなリスクがあるの?
低出生体重児とは、2,500g未満の赤ちゃんのことです。誕生時点での赤ちゃんの平均体重は、女の子が2,990gで男の子は3,076gです。
「差が500g」といっても、ピンとこないかもしれません。 しかし平均の8割しか体重がない赤ちゃんの多くは、ママの胎内で胎児として十分に育つ時間や環境がなく、運動機能の発達に影響があったり、肺など呼吸器が未発達に生まれてしまいます。胎児は胎内では羊水に浸っているため、肺や気管は一番最後に成長します。それが未発達のまま生まれると、呼吸器が弱く風邪にかかりやすかったり身体が弱くなる可能性があるのです。幼児として育ってからも、低身長や6歳時点の知能検査においてもIQ平均値の低さが報告されています 。
日本ではこうした低出生体重児が赤ちゃん全体の9.6%と増加しているのです 。
胎児や赤ちゃん時代の栄養環境が厳しかったとき
やせ妊婦さんから低出生体重児が生まれやすく、その危険性は以前から指摘されていましたが、最新の疫学や小児研究から、大人になってからも影響があることが分かってきました。
それがDOHaD(Development Origins of Health and Disease)学説です。第一次・第二次世界大戦といった戦争中、極端に栄養状態が悪化した地域がイギリスやオランダにありました。この時期に誕生した子供たちが50代60代になると成人病(肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症)の発生率がとても高いことが分かりました 。これをきっかけに、世界中で赤ちゃんが生まれる前から胎児として摂取するの栄養の重要性が再認識されているのです。
「リスクを知ること」が大事。知っていれば対処できるから。
胎児を含めた赤ちゃん時代の栄養環境が大人になってからも影響し、成人病になる可能性が高いという研究成果をいつかママになる方はぜひ知っておいてください。
そして、もうお子さんをお持ちの方々は、「DOHaDを今さら知っても、子供は大きくなってしまっているから手遅れ?」と思わないでください。 成人病のリスクがある、という意味はあくまで「なりやすい」ということです。野菜や肉や魚の良質なたんぱく質など大切な栄養をバランスが良く摂取する食生活を心がけて、適度な運動をするような生活習慣を心がければ、リスクは低めることができます。
リスクがある、ということを知り、これからを大切にしましょう。
【参考文献】
厚生労働省HP
日本産婦人科学会HP
日本DOHaD研究会