食べ物の消化器官として、健康や美容に深く関わりがあると言われる「腸」。最近は、腸内環境が脳の働きとも密接に関わっていることがわかっています。なんと、幸せな気分になれるかどうかまで腸内環境が左右しているのだとか。
腸はそもそもどんな働きをするのでしょうか?
一般社団法人 日本ダイエットスペシャリスト協会理事長
健康運動指導士
生活習慣病予防と改善の為の食事療法としてGI値に着目し、低インシュリンダイエットを提唱。主な活動として、各健康保険組合・企業・各都道府県での講演活動、雑誌の指導・監修、テレビ、ラジオ、新聞などの取材も多数受けている。
◆一般社団法人 日本ダイエットスペシャリスト協会 公式ホームページ:https://jdsa.co.jp/
腸はそもそもどんな働きをするの?
腸のすごさを知る前に、腸の性能についておさらいしてみましょう。
腸は、食道、胃に続く食べ物の消化器官の一つです。腸とひと口に言っても、小腸と大腸に分けられます。さらに、小腸は十二指腸、空腸、回腸の3つ、大腸は盲腸、上行結腸、横行結腸など6つからなります。長さは、小腸で6~7メートル、大腸で1.5メートル。合計すると、身長の4~5倍にもなります。 小腸と大腸では主な働きが違います。小腸は食べ物の消化・吸収を担当。栄養分の吸収のほとんどが小腸で行われ、大腸は食べ物の残りかすから水分を吸収し、大便を形成する役割を担います。この大便を形成するときの大腸の働きがとっても重要なのです!
腸内環境が整っており、大腸がうまく働くと良い便ができます。反対に、腸内環境が整っておらず良くない便ができると、有害な物質が腸壁を通じて体内にめぐり、さまざまな病気を引き起こす原因にもなってしまうのです。
腸は「第二の脳」だった!
腸は最近の研究によって、消化とは別の働きで注目されています。私たちの体の器官のほとんどは脳の指令で動いていますが、腸は脳の指令なしで独自に働く器官でもあります。
たとえば、体内の有害物質をブロックして排除するのも腸の働きの一つ。体内に有害な菌が入るとはき出したり、お腹を下して排除しますが、これは腸独自の判断です。腸に張り巡らされた細かな神経細胞によって、このような独自の判断が行われることから、腸は「第二の脳」と呼ばれています。
また、食べ物を吸収する役割がある腸は、体の内側にあるにも関わらず、外界のものと直に接触することになります。そのため、腸には体全体の免疫細胞のうち、およそ6割が存在しています。私たちが免疫力を保って健康な体を維持できるかどうかは、腸内の免疫システムにかかっていると言えるかもしれません。そして、免疫システムの状態は腸内環境に左右されるのです。
幸せな気分になれるのは、腸のおかげ!?
さらに腸は、私たちが幸せな気分になれるかどうかにも関わっています。
脳にはたくさんの神経伝達物質がありますが、その中に「セロトニン」「ドーパミン」という物質があります。これらが正常に分泌されれば、私たちは前向きで朗らかな気分でいることができます。
そして、脳の中にあるこれら「幸せ物質」ともいえる神経伝達物質を作っているのは、腸なのです。ちょっと意外じゃありませんか? たとえばセロトニンは、食べ物の中に含まれるトリプトファンというたんぱく質から腸内で合成されます。
ただし、腸内環境が整っていない状態ではセロトニンをうまく増やすことができないため、注意が必要です。
食事、水、運動に気を付けて「菌活」で腸内環境を整えよう!
腸は、私たちの体内だけでなく幸福感までも左右している「第二の脳」であることがわかりました。腸内環境の大事さにも納得できたのではないでしょうか。
腸内環境の鍵を握っているのが腸内物質の存在です。腸内には無数の物質がすみついています。大腸が良い便を形成するのを助けるのも腸内物質なら、免疫機能を高めるのも、「幸せ物質」の合成に必要なのも腸内物質であることがわかっています。
腸内物質を活性化して腸内環境を整える「菌活」を始めて、元気な腸を維持しましょう。腸内環境を整えるときのポイントとなるのは、食事・水・運動の3つです。
食事
腸内環境を整えるには、食物繊維を豊富に含んだ食材を摂ることが大切です。中でも植物性食品を中心に大豆や季節の野菜、海藻類が入った伝統的な日本食が腸内環境の改善に役立ちます。精製された小麦を使ったパンや肉類中心の欧米化した食事になっている人は、腸内環境のために食事を見直したほうが良さそうです。
また、食物繊維とあわせて積極的に摂取したいのが、発酵食品です。代表的な食材はヨーグルトやチーズ、キムチや納豆などが挙げられます。
食物繊維を一緒に摂取することで腸内物質をサポートすると言われているため、便秘に悩む人は積極的に取り入れてみてください。ただし、菌活にばかり気を使って食事のバランスが崩れてしまうことがないよう注意が必要です。
バランスの取れた食事とは主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物の5つのグループのバランスが取れた食事のことです。たとえば、たんぱく質や脂質中心の食事を続けると、腸内に悪玉菌が増えると言われています。
理想的な食事バランスを意識しながら、腸内物質や食物繊維を積極的に摂取してみてください。
水
腸内環境は活性酸素によって悪化してしまいます。そのため、活性酸素をなるべく抑えなければなりません。
活性酸素にはさまざまな発生源があると言われています。発生を防ぎきることは難しいですが、腸内環境を改善するために活性酸素を減らしてくれる水を取り入れてはどうでしょうか。
水道水をそのまま飲むのではなく、カルシウムが多く、アルカリ性で酸化還元電位の少ない水を購入するか、浄水器でそのような状態にするのがおすすめです。
運動
大便をきちんと排泄するためには、出しきる力を付けなくてはなりません。体を動かさないでいると、腸のぜんどう運動が停滞して便が滞る一因となることもあります。また、腹筋や腰周りのインナーマッスルが衰えていると、大便を押し出すことが困難にもなります。
便の滞留は腸内に不要な老廃物がたまっている状態。腸内環境にとってよいはずがありません。普段から適度な運動を心がけることも大切です。
また、理想的な腸内環境とは、菌の種類が多い状態を指します。日常的に運動するアスリートの腸内には、多種多様な菌が存在することがわかっています。つまり運動は腸内環境に影響を与えると考えられるでしょう。
理想的な腸内環境を目指すためにも、日常的に適度な運動を取り入れてみてください。
手軽に菌活を格上げするならサプリメントも一つの方法!
菌活において大切なのはバランスの取れた食事、最適な水、適度な運動です。特に食べたものは私たちの体を作るために大きな影響を与えるだけでなく、腸内環境にも関与しているため、重視したいところ。
菌活において大切な食物繊維の摂取量は、日本人の場合、年々減少傾向にあると言われています。
厚生労働省は食物繊維を1日あたり3〜4g程度摂取することを推奨しています。しかし、1日あたりの理想的な量の食物繊維を摂取するためには、かなり食事に気を使わなくてはいけません。食事を大きく変えることは手間もコストもかかるため、バランスの取れた食事を意識しながらサプリを取り入れるのも一つの方法です。
また、理想的な腸内環境を目指すために腸内物質も、単体で摂取するよりも複数種類摂取したほうがパフォーマンスアップにつながると言われています。
もちろん体を作る基本である食事バランスは大切ですが、不足しがちな栄養素をサプリメントで補うのも菌活をスムーズに進めるための大きな一歩と言えるでしょう。
まとめ
【参考文献】
『栄養素の豆知識』
『腸内革命 - 腸は、第二の脳である』(藤田 紘一郎 著/海竜社)
『一生医者いらずの菌活のはじめ方』(辨野義己著/マイナビ)- 厚生労働省ホームページ
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